2023年9月2日、運命的な出会いがありました。
週末工事の状況視察のために客先工場へ向かう途中、命の危機に瀕していた子猫を拾いました。
次の信号で右に曲がるため右折レーンに侵入しようしていた時、なにかがぴょこぴょこ飛び跳ねながら横断歩道を横切るのが確認できました。
私は右折レーンに侵入するために速度を落としていたのでニアミスすることもなく、少し離れていたこともあって早めにこの物体を視界にとらえました。走るではなくぴょこぴょこ移動していたので、「あ、子猫だ」ということはすぐに分かりました。
こうやって文章にしていると緊迫感に欠けますが、実際は
「あ、子猫……ヤバい!」
というくらいの刹那の感覚です。
というのも、この交差点の道路事情を説明しなければなりませんが、ここ愛知県は別名トヨタ県と言われることもあるくらい車にゆかりのある県ですので、幅の広い道路が多いです。
ドライバーからすると走りやすくて非常にありがたいのですが、現場となった交差点は、反対車線側にローソンのある直進2車線右折2車線の片側4車線、対面合わせて8車線の交差点でした。中央分離帯もあるので、全体で30m以上はあるのではないでしょうか。
そんな大きな道路をこの猫は、私から見て反対車線から横断歩道を横切っていきました。都合6車線分は渡り切りましたが、私の後ろを追従していたミニバンが右折レーンに侵入した私の車を追い越すように直進し、この猫を轢きました。
いえ、轢いてしまったと思いました。そのくらいミニバンの運転席側の前輪が子猫の影を吸い込んだように見えたのです。
今でもはっきりと思い出せますが、ミニバンが過ぎ去ったあと、この茶色い物体がゴロンと横転しました。私は前輪に轢かれ、後輪にも轢かれたこの物体が、衝撃で道路にはじき出されたのだと思いました。
ですが、この物体は転がったあと一瞬もがくようなしぐさを見せたのです。それで即死ではないことがわかり、五体はおそらく問題ないのだろうと直感しました。
あまりに小さな猫なので、接触=かすり傷はあり得ないと思ったのです。
ただ、そこは幹線道路の直進レーンです。土曜日の朝9時ころということで普段よりは交通量は少ないですが、それでも次々と直進車が続きます。
ミニバンをかわした子猫は最初こそ起き上がろうとしたように見えましたが、2台目の車が自身の上部を通過したことで完全に恐怖に囚われ、硬直してしまいました。
私はこの108日前、5/17に愛犬のパグびしゃもんを熱中症で喪っていました。心の傷はすこしずつ癒えてきたように感じていましたが、後悔や反省の念は消えていませんでした。
そこにこんな事件が起きたため、この子猫の命が、私の中で他人ごとではなく完全に自分事として認識され、私は心の底から「無事でいてほしい」「信号が赤になったら渡り切ってほしい」と願いました。
やがて直進が赤になり、右折の→が点灯しました。ですが、子猫はそこから身じろぎひとつしません。
やはり恐怖が身体をむしばみ、動けなくなっていたのでしょう。
私は子猫の無事を願いつつ、右折しすぐさまローソンに飛び込み駐車しました。
次の直進の信号が青になる前に硬直を解いて渡り切ってほしい。そう思いながら車を降り、歩道橋にダッシュします。
あまりに大きい道路になると横断歩道がなく、対岸に渡るには歩道橋を使うしかない道路があり、この現場の道路も私の走行していた優先道路側は右左折時の巻き込み防止の為か横断歩道がありませんでした。
歩道橋を上がる直前に子猫を視認し、動けていないことを確認して私は歩道橋を2段飛ばしで駆け上がりました。
交差点の角にあるコンビニに駐車し、歩道橋を駆け上がりまた下りるまで、どうしたって1回は直進信号が青に変わってしまいます。
「頼む、出来たらだれか拾ってくれ。それが無理ならなんでもいいから無事でいてくれ」
もうその気持ちだけで、私はできる限りの全力でもって歩道橋を渡り切り、こちらの信号が青になるのを待ちました。
待っている間、やはり子猫は動きません。
信号が青になり、私は歩いて子猫に近づきました。今は恐怖で動けなくても、人がダッシュで近づいてきたらそれに驚いて走り出し、また車と接触する危険にさらされるかもしれないと思ったからです。
近づいていくと、子猫の声が聞こえてきました。
みゃあ~、と。
恐怖にかられたか細い声で、必死に親を呼んでいたのでしょう。
「助けて」と。
でもここは大きな交差点のど真ん中。車の走行音にかき消され、誰かに届くような状況ではありませんでした。
私以外には。
ついに子猫のそばまでたどり着き、一度子猫を観察しました。
やはりけがはなさそう。そして、私が近づいても動く気配がないこと、手を出した瞬間飛びあがって逃げ出し他の車に轢かれる心配がなさそうなことを確認し、私はゆっくりとしゃがんでなるべく子猫の視界に腕が移りこまないように地面すれすれから手を伸ばし、胴体をわしづかみにしました。
捕獲(救出)成功。
小走りにもと来た道を引き返し、ローソンの駐車場に戻ります。
途中、私は子猫を両手で胸に抱えていたのですが、急に暴れ出し私の身体を駆け上がり、肩から首の後ろへ回り込もうとするので危なかったです。
ここで逃がしては、また危険に晒されかねないと思ったので、強引に肩から引っぺがし、右手で胴体をわしづかみにし、左手で胸に押さえつけるように抱えなおしました。
めちゃくちゃ引っ掻かれました。
車に戻り扉を閉め、ひとしきり暴れる子猫が大人しくなった瞬間に撮ったのが、この写真です。
当時は気づきませんでしたが、よく見ると結構汚れていますね。
写真の感じだと私のことを見上げているように見えますが、実際はあさっての方向を見ています。猫からしたら掴まってしまったとしか思っていないだろうし、信頼関係なんてあるはずもないのだから当然のことですね。
子猫も震えていましたが、私も震えていました。はぁ~良かった、と。本当に最初につぶやいた言葉がこれでした。
さて、どうしようか。
私はしがない中小企業のサラリーマンで、勤務中で、工長として客先工場へ現場視察に行く途中です。
仕事をまくる(サボる)わけにもいかず、とりあえず猫を車に乗せたまま客先工場へ向かいました。ローソンの駐車場を出る前に助手席のシートの下に隠れたのでちょうどよいと思い、そのまま工場へ入りました。
工場に屋根付きの駐車場などあるわけもなく、このまま社内に放置していては10分で熱中症になってしまいそうな暑さでしたので、仕方なく猫を助手席の下から引っ張り出し、猫とともに現場へ向かいました。
いまだかつて、某有名車両メーカーのしかも高級ブランド生産工場に猫を連れて入場したのは、私をおいて他にいないのではないかと自負しております(笑)
現着しメンバーと話をしていましたが、あまりにさりげなく胸に猫を抱いていたので、1分ほど誰にも気付かれなかったのが面白かったです。
気付くとみんなが気を遣ってくれて、とりあえず段ボールを用意してくれたのでそちらへ子猫を移し、ウエス(端切れ布)を被せてやりました。
小一時間現場の様子や作業の進捗を確認し、車に戻ってエンジンをかけてから撮ったのですが、それがこの写真です。
懐疑的な目つきですね。無理もない。この子にとってみれば生殺与奪を目の前の人間に握られている状態。どうにかして逃げ出したいと思っていることでしょう。
工場から出るとき、トラブルがありました。
客先工場から退場するとき、守衛で持ち出し品チェックがあります。持ち込むものを専用の用紙に記入し、持ち出すときはその持ち込み表を渡して目視チェックを受け、問題なければゲートが開いて退場できるというシステムです。
当然、猫の持ち込み表など書いているわけはなく、車の中に見知らぬ段ボールがあれば質問を受けるに違いありません。
ごみを持ち帰るときに持ち出し表を書くことはないため、段ボールの上を開けて中身が見える状態であれば「ゴミです」といえばすんなり通してくれます。
ですが何かのタイミングで猫が顔を出したりしたら追及を受けることに疑いの余地はないので、入場の時のように助手席の下に隠れてもらおうと思い、段ボールから出して助手席の足元においてみました。
すると子猫は助手席の下に潜り込むのではなく、ダッシュボードの下に小さな穴があり、そこに飛び込んでしまいました。
そんなところに穴が開いていることなどつゆ知らず、またその穴がどこに続いているのか、袋小路の空間なのかも分からないため、最悪エンジンルームに繋がっているかもしれないと思い、血の気が引いた状態で慌ててエンジンを切りました。
外に出てボンネットを開け、エンジンルームの中をくまなく探しましたが見つかりません。というか奥まで見えないので見つけられません。
私は焦りながら車内に戻り、その穴に左手を突っ込んでみました。
すると少し奥まったところで猫の身体を触ることができたので、思い切って奥まで左手を突っ込んで身体をわしづかみにし、何かに掴まっているような抵抗を受けましたが、離して手の届かないところまで行かれたら終わりだと思って、そのまま強引に引きずり出しました。
私は助手席の下に隠すのは諦め、またぐらに猫を挟むようにして守衛を通りました。
もし見咎められたら、ありのままを話して許してもらおうと思っていましたが、すんなり通ることができました。
たぶん角度的にドアに遮られて外から見えないのでしょう。
無事に工場から出た私は路肩に車を停め、段ボールに猫を移しウエスで包んでやりました。そうしていると大人しいっぽいので、そのまま会社に戻り、すぐに退勤し帰宅しました。
妻と子供は大はしゃぎしていましたが、保護犬保護猫は、保護したら拾った人に責任が生じるのが現行のルールです。ですので、飼うにしろ里親に出すにしろとにかく面倒は見る必要があります。
また月齢も分からなければ世話の仕方、与えるべきごはんのチョイスも分からないので、まずは病院で診てもらおうと、びしゃもんの通っていた動物病院に連れていき視診触診・検便をしてもらいました。
性別はオスで体重は0.5kg、乳歯がしっかり生えていることから月齢1か月ちょっとくらい、ノミあり、寄生虫ありの診断を受け、ノミを退治する塗り薬と寄生虫を倒す飲み薬を処方してもらい、帰宅しました。
びしゃもんのお出かけ用ケージが彼の仮住まい。視線は合わせてくれますが、この時はまだまだ警戒心は解かれていません。
世話を始めて2週間が経った現在(この記事を書いている9/17)すでに家族の一員ヅラして家の中を散策しまくっていますが、近況は別の記事にて紹介したいと思います。
では、また。
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